素顔のひとり言

250余名の手相写真を掲載した研究書

旅と云うのは、時として予定外の収穫をもたらすことがある。正直、今回出向いた中国本土への旅行においては、占いに関してはほとんど何も期待していなかった。それは前回訪れた時にもそうだったが、現代中国は表向き「占いを排除した国」となっていて、街を歩いても占いの看板であるとか、占い関連グッズであるとかほとんど見かけないからだ。それに前回の時には、占いの書籍も見当たらなかった。実際ガイドさんに尋ねても「占いの本はないですね」と、あっさりしたものだった。

以前読んだ風水の書籍でも、毛沢東の文化大革命以降、占い師のほとんどは思想弾圧に逢い、中国本土を追われ台湾や香港へとのがれて生き延びている…と云ったようなことが記されていた。本来、東洋系の占いのほとんどは中国本土で生まれ育ったものであるが、秦の始皇帝の再来のように、毛沢東・共産思想は占術思想を葬り去ろうとしたのだ。

もちろん、その影響を引き摺っている現代の中国本土でも大っぴらに占いを普及させることは難しい。同じ中国系でも、台湾や香港の書店やコンビニではズラリと並んでいる占いの本や雑誌も、中国本土ではほとんど見かけない。

ところが、ひょんなところから占いの書物は発見された。何となく上海の雑踏にまぎれて歩いて行くうち、お腹がすいて立ち寄ったショッピングビル内で大型書店を見つけ出したのだ。そこで店員に訊くと、わずかながら占い関連のコーナーがあることを教えてくれた。正直大したものはないな…と思っていたとき、健康・医学関連書籍の中にその手相研究書はあった。私はその著者の名をどこかで記憶していた。

日本に戻って確認したところ、やはりその著者は日本でも手相と病気との関連を著書として出版していた。けれども、日本で出した本には実例手型や実例写真は1枚もなく図解だけで、やや解り難い書物となっていた。今回中国から購入してきた書籍はA5版の大型サイズで、250余名の実症例カラー手相写真と共に、カラフルな図解も豊富で手間暇かけて制作された書籍であることがうかがえる。付録として2枚の折りたたみ式「手掌臓腑対応図」や「手掌八卦図」も附いている。(残念ながら2枚とも少し引き裂かれていて、もしかしたらこの部分だけ強引に引き抜こうとした者がいたのかもしれない)広げてみると1メートル四方はある医学テキストのような解説図解だ。

書名もズバリ『王晨霞の掌紋による五臓六腑』で「手相」とはしていない。

著者である王晨霞(おうしんか)は、21歳から中医学を学び、人民病院、蘭州第二病院に医師として勤務。33歳から掌紋医学の研究に着手し、同時にチベット薬、漢方薬の研究にも着手。40歳の時に7万人以上の掌紋診断カルテを元に『現代掌紋診断』を発表して注目を集めた。現在は「世界掌紋研究協会名誉主席」の立場にある。白衣を着た美人女医なのだ。

或る意味で、このような書物の完成は医学者だから可能なことであって、さまざまな病症例の手相写真を収集すること自体、一般の占術家・手相研究者では難しいと云える。

ただ惜しむらくはこの書籍に掲載されている手相写真はいずれも小さく、掌線すべてが鮮明に映っているわけではない。時おり部分的に拡大している写真があるのだが、そういう手法をもっと多用すべきだった。或いは写真に加え手型を横に添えると、より解り易かったかも知れない。それと手相写真に対する解説図解が附いている手と、そうでない手とがあり、全部に与えて欲しかった。ただ、それらを割り引いたとしても、この研究書としての価値は下がるものではなく、世界的に見ても、歴史的に見ても、人類の宝として価値のあるものであることは間違いがない。

もちろん私は中国語が堪能なわけでもなく、どの程度これらの内容を把握できるか分からないし、すべてそのまま当てはまると妄信することも危険であろう。

日本の研究者でも、王氏と似たような角度から手相と病症との関連を追及している人物がいないわけではない。観相医として知られる直塚松子氏がそうで、戦争中に中国に渡って、北京仏学研究院で易と手相を学び、済魯大学医学部で西洋医学を習得。帰国後「手相による健康診断法」を確立し、観相医として活躍している人物だ。彼女の場合も著書の中で多数の実例手型を掲載しているが、王氏と共通する解釈は比較的少なく、二人の間に接点があるのかないのか、私には分からない。

元々中国における観相術は、医者が患者の身体を(霊視)観察する「望診術」に始まると云われる。そういう意味では、彼女たちの研究は本来の姿に戻そうとしているだけなのかもしれない。

今回、私は他にも何冊か手相書を購入してきた。『手相宝典全編』もその一つだが、これは完全な人事百般手相術で医学とは無関係だが、実証手型は240枚ほど収められていた。しかも、そのどれもが非常に鮮明な手型で、どのように手型を採取したのか知りたいとさえ思ったものだ。このような真摯な研究書が次々と上梓されているのが現代の中国なのだ。しかも書籍代金は総じて安い。この点は勘違いしやすいので記しておかなければならないが、現代中国、なかでも上海や北京の物価は決して安くなどない。例えば上海の百貨店で洋服を買おうとすると、ほぼ日本と同様な価格帯であることがわかる。時には日本より高かったりする。中国だから安いと考えるのは大間違いなのだ。だが書籍類だけは安い。多分、だから誰にでも書籍は購入しやすいはずなのだ。勉学心さえあれば沢山本を購入できるのが中国なのだ。私は、そこに中国の未来を見る。オリンピックでメダル100個を獲得したことをガイドは自慢していたが、そのエネルギーが学術研究に向けられた時、中国は世界に誇れる国へと飛躍していくに違いない。


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