素顔のひとり言

弟との距離感

現在、東京で暮らしている弟から電話があって、海外に住むことになりそうだと云う連絡を受けた。海外と云っても、メジャーな海外の都市ではない。ポナペ島と云う一般的にはほとんど知られていない島だ。何処にあるのかと云うと、弟から二度聴いているのだが、未だによく解からない。なにしろ私が持っている地図では見当たらないからだ。パプアニューギニア諸島の近くらしい。

一応、講師と云う肩書で向こうへ行って、基本的には二年間暮らすことになるが、もしかしたら其処に永住するようなことになるかもしれない、とのことであった。彼はちょうど10年ほど前にも其処に行っていて、何週間か居たことがあるので、そういう点では落ち着いたものであった。ただし、その時は確かマグロの漁業権の問題で行っていたのだが、最終的に交渉が決裂して多大な損失をこうむった経緯がある。今回は仕事内容が違うらしいので、その点では前回のようなことはないとは思うが、日本の住居や生活用品すべてを処分して出掛けることになるだけに、万一のことがあっても、私の方は兄として経済的手助けはできない旨、念を押しておいた。

弟には、正直なところ、昔お金を貸して現在に至るもそのままになっている苦い思い出がある。親子・兄弟と云うものは、金の貸し借りは本当ならすべきではない。どうしてもなあなあになってしまうからだ。それでも、親族の少ない兄弟であれば、貸し借りが生じてしまうこともままあることだ。だから、貸すなら、還らなくなっても仕方がないものとして渡す以外ない。逆な言い方をすれば、そうなりそうな予感のある時には、前もって予防線を張っておくのが良いと云うことだ。

そういうわけで、今回はさりげなく予防線を張っておいた。大体、彼は十年以上前から、借金に関しては、私に対して何倍にもして返す、と繰り返してきた。繰り返してはきたが、還ってきたためしがない。まあ、それは良い。

彼は、以前(と云っても相当に前だが…)、韓国の女性と婚約寸前までいった。元旦をソウルで迎え、正月を二人で過ごすようなこともあったらしい。ところが、彼女の親族から反対が出て、結婚の話はキャンセルとなった。どうも、彼の一言で態度が急変したらしい。何を云ったのかは知らないが、大体は推察がつく。昔から、相手に対して無神経な批判をする癖が、彼にはある。

ポナペ島に彼好みの女性がいるかどうか、私は知らないが、私の直感では、この話が実現した場合、もしかしたら現地の女性と一緒に暮らす可能性が出てくるかもしれない…と、何んとなく思った。ただ、正式な結婚をする場合は、相手家族との会話で無神経な批判癖を持ち出すと、前回の二の舞となるだろう。

弟とは、若い頃、よく一緒にワインを飲みながら将来を語り合った。その当時、私は占い師としてはまだセミプロで、弟の方は22、3だったが学習塾を自営していた。あのまま学習塾が軌道に乗っていれば、弟の方がはるかに大きな成功をもたらしていただろう。弟はその後、生徒が学習塾の前でタバコを吸っていた事実から責任を問われ、地元を追われるように東京へと移り住んだ。そして、塾教師、翻訳のアルバイト、予備校講師、ルポライター、業界誌編集者、宝石店の営業部長、建材会社支社長、空調会社の営業、アニメ製作の海外交渉役、翻訳業、警備員など、実にさまざまな職業を転々とした。

私の方は北海道に残り続けたせいで、彼が東京へと出た後は北海道と東京になり、実質的な距離感が生まれたことで逢う回数もおのずと減った。最後に会ったのはいつだろう。多分、もう5、6年ほど前になるだろうか?彼の容貌は大きく変わっていた。そのあまりの変わりように、言葉を失ったくらいだった。

今度会うのはいつになるのか、果たして会えるのか、ポナペから戻ってくるのか…さまざまな思いの中で、確実に距離感が広まったことだけをひしひしと感じる。


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