今日の迷言・余言・禁言

新宿の母『手相の真実』は“名前負け”の本だった

私が“栗原すみ子氏”のことを最初に知ったのは55年位前になる。私がまだ子供の頃だ。その頃、既に栗原氏は“伊勢丹横に立つ手相見”として有名になっていた。もちろん直接知ったのではなく雑誌に載っていたからだ。何となく興味を持った。特に私が興味深く思ったのは、テーブルも椅子もなく、立ったまま手相で鑑定していたことだ。しかも、その周囲には“のぼり”のようなものが建てられている。また手書きの手相図がいくつも貼りだされていて、そこに“玉の輿に乗る手相”とか、“結婚できない手相”とか、“大金持ちになる手相”とか、いろいろ書かれている。何となく怪しかった。けれども、そこには常に“長蛇の列”があった。若い女性達が群がっていたのだ。やがて栗原氏は「新宿の母」と呼ばれるようになり、風貌的にもどこか“母親っぽさ”が滲み出るようになった。いつの間にかマスコミの寵児ともなって、雑誌やTVに引っ張りだことなった。著書も何冊か刊行した。その中の一冊に『手相の真実』という本がある。大体、その人の著書を読むと、その人の鑑定方法が分かる。その鑑定人数は何十万人にもなるということで、私は注目して読ませていただいた。けれども正直なところ、がっかりの一語だった。とても何十万人もの人達を実際に鑑定してきた人の手相書とは言えなかった。『手相の真実』というタイトルだが、あまりにも粗雑な内容で“真実”からは程遠いよう思われた。粗雑な本はさして評判にもならなかった。彼女は“東北訛り”がきついのだが、それが独特の“母親っぽさ”を生み出していた。だから、地方から東京に出て来た若い女性達の“母親代わり”として、自らの体験を踏まえての“指導”に定評があった。つまり、彼女の占いは「手相」(のちに九星も加えられた)による判断と思われているが、どちらかというと彼女の体験的“人生勘による判断”と言って良かった。そこには田舎から出て来た先輩としての“人情”と“励まし”があった。「占い」は当たれば良いというものではない。おそらく彼女の「占い」は、当たったから評判を呼んだのではない。いつまでも“母親っぽかった”から支持されたのだ。ところが、マスコミは「当たる」と勘違いして宣伝をかける。そうすると、いつの間にか本人にも「当てなければ…」的な意識が強まり始めた。こうして「新宿の母」人気は、潮が引くようにしぼんでいった。


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